大学受験国語 AI読みで小林秀雄を解けるのか?

図書館で本を探す女の子

AI時代に文章読解で問われることとは?

大学受験で過去に出題された小林秀雄の文章読解、そしてAIによる国語問題の解法のしかたを通して、受験国語でこれから求められる力を解説します。

人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」: 第三次AIブームの到達点と限界

1. 東大ロボは国語が苦手!

皆さんは「東ロボくん」を知っていますか。

東ロボくん – Wikipedia

2011年から国の研究機関が東大入試合格を目指して開発を進めてきた人工知能(AI)のことです。

東ロボくんの実力は次のとおりです。

偏差値

・数学76
・世界史65

合格率80%以上 のA判定の大学数

・472大学(全国の大学の8割にあたる)

秀才ぶりを発揮し、難関大学にも合格できる偏差値をたたき出したのです。

しかし、そんな秀才・東ロボくんには弱点がありました。
苦手科目があり、その苦手科目克服ができないがために、2016年、東大合格を目指すことを断念しました。
その苦手科目とは「国語」だったのです。
特に国語の中でも「小説」が最も苦手だったそうです。
なぜなのでしょうか?

この背景を知っておくことが、東大入試や共通テストなど、今後の入試国語の傾向と対策研究になると考えます。

2.これが東大ロボの国語の解き方だ!

東ロボくんが国語の問題をどう解いているかをまず見ていきましょう。

【東ロボくんの解き方】
①設問文と選択肢の文字の重複率(オーバーラップ)
②文の長さの妥当性で選択肢を判断

このように、文章をたんに情報ととらえ、「統計的判断」で問題を処理しているだけで、東ロボくん、文章の意味はまったく理解せずに問題を解いていたのです。
ただ、この方法でも評論文のような論理的整合性を問う問題では50%以上の正答率を獲得していたそうです。

しかし、これでは評論文の選択肢問題はできたとしても、小説となると解けるはずはありません。

3.東大ロボと国語が苦手な受験生の解き方はこんなに似ていた!

入試の小説は文中のセリフや行動などから、その背後に隠れた登場人物の心理を推し量って答える問題ばかりです。

「顔を真っ赤にする」とあっても、その場面では恥ずかしいのかもしれませんし、怒っている可能性もあります。
どのような意味で使われているのか文章を読めば前後の文脈でわかりますが、東ロボくんにはそれが全くできないわけです。

文章読解が現在の人工知能では困難なため、東ロボくんの研究開発はストップされたのでした。

改訂新版 ロボットは東大に入れるか (よりみちパン! セ)
さてここからが本題です。
この東ロボくんの解き方を皆さんが反面教師にすることこそが、共通テストや思考力を問う国語問題を攻略するカギになると考えるからです。

なぜなら、東ロボくんの解き方こそ、国語が苦手な人の問題の解き方と、とてもよく似ているからです。

【東ロボくんの解き方】
①本文をまったく読まない。
②本文と選択肢との重複率を計る。
③論理的な選択肢を選ぶ。
④小説(心理や意図)は読めない。
【国語が苦手な人の解き方】
①本文をよく読まない。
②選択肢の中から本文の言葉を探そうとする。
③一般的で、もっともらしい意見の選択肢を選ぶ。
④本文で筆者が何を伝えようとしているかを考えようとしない。

4.今後、解法テクニックは通用しなくなるのか?

国語の問題解法には文章の最初と最後だけを読んで時間をかけずに解くような「解法テクニック」が存在します。

「解法テクニック」と「東ロボくんの解法」。
本文を読まないという点でとても、とてもよく似ています。
国語の解法テクニックの中には本文と選択肢を比較して、同じ言葉がどれくらいの割合であるのかを見て正解を判断する方法もあります。

この方法も東ロボくんとよく似ています。
東ロボくんが評論文では一定の成果を出していることからも分かる通り、解法テクニックを使えば解ける評論文。
実はかなりあります。

しかし、小説となると、このようなテクニックが通用するかというと、そうとも言えません。
加えて、今回は評論文の中にも東ロボくんや解法テクニックがあまり通用しない文章があることをお伝えして今後、どのような入試問題で受験生が問われるかを示したいと思います。

先走って言うと小説のような読み方が必要な評論文というものがあり、そのような「読み」を必要とするものこそ、ロボットに解くことができず、人としての思考力、判断力を問う問題だからです。

5. 小説のような思考力が必要な評論文とは?

センター試験の2013年の評論文の小林秀雄『鐔(つば)』がその一例です。

この年の評論文は昭和の教養人であり、文芸批評の第一人者である小林秀雄(1902年‐1983年)の文章が出題されて大変話題になりました。


『鐔(つば)』収録
小林秀雄全集〈第12巻〉考へるヒント

小林は何十年も前から大学入試の定番の出題作家でした。
お父さんお母さん世代だけでなく、おじいちゃんおばあちゃん世代もが大学受験を経験した頃から多くの受験生をとても苦しめて来た入試問題、それが小林秀雄の文章でした。

小林秀雄・山崎正和攻略集 (ダブルクリック評論文読解 (1))
小林の文章は一般的に難解と言われています。
なぜ難解に感じるのか。
小林の評論文の文体や文章構成が一般的な評論文と異なっているからです。

小林の文章は、一般的な評論文の特徴である「明解さ」や「結論をはっきりさせる」ことを必ずしも意図していないからです。
ですから、評論文と考えるよりは硬質な内容を扱った「随筆文」という認識を持ったほうが受験生にとっては良いでしょう。

小林の文章は抽象的な説明をしていると思ったら、突如として私小説のような感じで自分の体験談が文章の途中に入ってきます。
そのため論理に加え、著者の「心情」や「比喩表現」を読み取ることが必要なのです。
初めて読むと面食らうでしょう。
入試で初見で読んだ受験生の中には混乱してしまった人もいたでしょう。

このように小林の文章は小説的な読解が必要なため、評論文の解法テクニックを使って「処理」しようとしてもうまく行かないのです。
小林の文章はテクニックで「処理」するのではなく、正攻法ともいうべき文章を一文一文しっかりと読んで、文脈から筆者の意図を類推していく読解法しかありません。

これは文章を読む上で最も基本的な態度です。

皆さんも好きな小説を読むときは一文も読み飛ばさず、じっくりとその世界に浸るように小説を読むと思います。
好きな小説を読むときと同じように、じっくりと味わうような文章の読み方をして欲しいという意図して書いたのが、まさに小林秀雄の評論文なのです。
ですから、小林の文章は最後に筆者の意見が明確にまとめられたりはしないのです。

小林は読者に「考えるヒント」を示すに留まり、読者の想像力、思考力に委ねるように文章は終わります。
最後の段落だけ読んで全体を推測しようというテクニックは、そのため小林には通用しません。

6.実践!小林秀雄の読解法


小林秀雄を出題した問題作成者は、受験生を困らせようとしたわけではなく、テクニックの通用しない小林の評論文で受験者が文章をしっかりと読み込む力があるかを測りたかったのでしょう。

ただ、センター試験の限られた時間の中では、小林の文章を熟読するというのはなかなか大変なことです。

この年、受験者は例年より解きにくいと感じたでしょう。
数字で見ても、国語の平均点は前年と比べて約17点も下回りました。

出題された『鐔(つば)』という小林の文章の内容の読み取りをしましょう。

骨董品の刀のつば
=×「単なる装身具、美術工芸品」
=◎つばが作られた当時の武士たちが、生死のはざまに使った凶器ともいうべき「実用品」

このように小林は刀のつばに「生命感」を見出そうとします。

文末にそれまでの刀のつばを扱った文脈とはまったく異なる旅先でのエピソードが出てきます。
鳥の鷺(さぎ)が頭上の空を舞う体験談が意味深に付け加えられているのです。

受験生は混乱したことでしょう。

絵のように木に留まって動かないままでいた鷺が突如として頭上を舞った瞬間の「生命の躍動感」と、つばの彫り物に感じた「生命の躍動感」とを重ね合わせて見ている小林の心象を表現しているのです。

非常に比喩的、文学的な構成です。

このような読み取りは文章全体のつながりをじっくり追って読んでいけば分かるのですが、最初と最後の段落を読んで性急に論旨を見極めようというテクニックに走ったりすると、「瓢箪から駒」ではありませんが、「刀のつばからなんでサギが飛び立つんだ?」となって、まったく意味が分からず、制限時間が迫っている試験場では、混乱するばかりです。

7.いま、問われる小説的な読み方とは?

試験の設問4をみると「比喩」の読み取りを問う問題が出でいます。
比喩は本来なら「小説」で問われることが多いです。

問4 傍線部C「もし、鉄に水をやれば、文様透(もようすかし)は目を出したであろう。」とあるが、それはどういうことをたとえているか。最も適当なものを選べ。

たとえとは、「Aというものを説明するために、似たBというものをあげること」ですから、同じ話題を説明するのにそれまでとは違った言葉を用いて説明しているのです。
ただ単に本文と同じ言葉があるから、この選択肢が正解だろうと選ぶ方法では比喩の読み取り問題は答えられないのです。

この問題、もちろん、東ロボくんには答えられないのです。
だからといって、文学的才能がないと読み取れないかというとそうではありません。

傍線部の前後と選択肢をじっくり比べて読めば解くことは難しい問題ではないのです。

8.AIができないことが君には求められている!

このように見てくると「処理」することを拒む文章が、小林秀雄の文章だと言うことが分かるでしょう。

AI時代が到来する今だからこそ、東大をはじめとした大学入試で、人間的な思考力、判断力を測っているのです。
それをはかるために、小林秀雄の文章がセンター試験に登場したのだと考えられないでしょうか。
大学が本当に欲しい学生はどのような学生かを考えると、AIができないことができる人材であり、テクニックで急場をしのぐような人材でもないでしょう。

今後、この流れは東大は言うに及ばず、国立大学は当然のこと、私立大学入試でも問われるポイントとなっていき、その一方で得点差が出る箇所になるため対策が必要なのです。

文章をしっかりと読む「実直さ」や「人間的な理解と応用が効く力」を持った人材でしょう。
AIができない「筆者の意図の読み取り」は、人間が読む場合でも「解法テクニック」を使っていては限界があります。

何でもショートカットはできません。
筆者が何を言いたいのかを細部から読み取ることに集中しましょう。

そうすれば、文章全体を貫いている流れがきっと見えてきます。

9.まとめ

① ふだんからしっかりと文章を読みこなす習慣をつける。
② 文脈から筆者の意図を類推しながら文章を読む習慣をつける。
③ 性急に本文と選択肢の読み比べに走らない。
④ 設問に答える前に、一呼吸おいて自分なりに筆者が何を言いたいのかを整理する。
⑤ 傍線部のみの判断でなく、文章全体とのつながりを答える際の根拠にする。

共通テスト過去問研究 国語 (共通テスト赤本シリーズ)

まずは資料請求・無料体験から

資料請求/無料体験フォーム