
読む力が未来を変える:今必要な国語力
近年、生成AIや音声認識技術が急速に進歩し、人間の言語活動の一部は機械が代替できる時代へと移りつつあります。文章を書く、調べる、翻訳する——かつて「人間にしかできない」と思われていた知的作業の多くが、今ではスマートフォン一つで可能になりました。
しかし同時に、学校教育や学力調査、企業採用においては、従来以上に「読解力」「情報の信頼性評価」「批判的思考」が注目されています。
なぜでしょうか。理由は簡単です。AIは過去から現在までに蓄積された情報をもとにした統計や推論を提示できますが、「情報の意味」や「文脈」「価値」を判断して、矛盾する事実の間で答えのない問いに解決策を見出したり、そもそもの問いを生み出すのは人間だからです。
特に子どもたちは、インターネット上に溢れる情報や広告、巧妙に編集された動画メッセージ、SNSの言説など、かつて存在しなかった種類の“文章”に日々触れています。それらは単に「文章を読む」だけでは真のメッセージを理解しきれません。行間、意図、前提条件、立場、データの確かさ……これらを読み解く力、すなわち 総合的読解力 がこれまで以上に求められているのです。
■ なぜ今、「総合的読解力」が重要なのか
読解力と聞くと、多くの人は「文章を正確に読む力」と考えます。しかし現代で求められる読解力はそれだけではありません。
国際的な学力調査(PISA)でも評価項目は「単に答えを拾う力」から「情報を比較・整理し、信頼性を判断し、自分の考えを形成する力」へと変化しています。
つまり現代の読解力とは、次の力を含む複合スキルです。
- 情報を探し出す力
- 文脈を理解する力
- 情報の信頼性を評価する力
- 立場や意図を読み解く力
- 複数の情報を統合し自分の意見を構築する力
これはまさに、社会で必要とされる能力そのものです。これからの時代、AIが情報を提案し、人間がその中から価値のある情報を判断し、社会・倫理・人間の視点から意思決定を行う場面が増えるでしょう。時代の潮流を敏感に察知し、国家的価値観や地域性に調和する事柄を取捨選択しながら、新しい価値を創り出すことが人間の役割になっていきます。
だからこそ国語力は単なる“教科”ではなく、“生きるための基礎能力”へと変わりつつあります。

■ 総合的読解力を育むために欠かせない3つの視点
①「意味がわかる読み」から「構造がわかる読み」へ
子どもは文章を読むとき、内容だけに意識が向きがちです。しかし、文章は構成や論理によって理解しやすさが変わります。具体的には、
- 主張はどこか
- なぜそう言うのか(理由・根拠)
- 例やデータは何を支えているか
- 書き手の立場は中立か、主張型か
こうした“構造を読む習慣”を身につけることで、文章が単なる情報の羅列から、「意味を持った文のまとまり」として理解できるようになります。これは、高校・大学受験の記述式や論述式においても非常に重要です。
② 「どこに書いてあるか探す力」から「必要な情報を選ぶ力」へ
検索エンジンやAIチャットが普及した現在、「調べる作業」はかつてより容易になりました。一方、「正しい情報」「必要な情報」を見極める力は難易度が上がっています。
例えば、次の視点は教育現場で重視されています。
- 情報の出どころ(一次情報か二次情報か)
- 広告・宣伝目的か中立性があるか
- 反対意見や根拠の違いが存在するか
- 同じテーマについて複数の視点があるか
これらを意識して調べ物をする習慣は、将来の探究学習・研究・社会生活・職業選択にも深くつながります。
③「書かれたことを理解する」から「自分の考えを作る」へ
読解力の最終到達点は、読んだことを踏まえて自分の思考を組み立てられることです。文章を読むことは目的ではなく、思考の材料を得るための行動です。
例えば、
- 読んだ情報と自分の経験を比べる
- 賛成・反対の理由を言語化する
- 他の文章や資料と照らし合わせる
こうした作業は、ただ読み流すだけでは生まれません。書く・話す・比較するというアクションが必要です。読解力とは「読む力」ではなく「意味を作り出す力」と言ってもいいでしょう。
■ 小学生から育てるべき3つの習慣
総合的読解力を育むために、今日から家庭で実践できる習慣を3つ紹介します。
始めは大人も一緒にやってみて、大人の素直な意見を子どもと話し合ってみるのをお勧めします。また、基本的に「正解はない」と心得ましょう。子ども自身が思ったこと、感じたことは否定せず、そう思ったんだねと受け入れてあげましょう。訓練を重ねていくことで、しっかりとした自分なりの意見を持った子どもに成長するはずです。
📌① 読んだ内容を「要約」する習慣
要約は、文章の構造を理解し、重要と不要をふるい分ける力を育てます。最初は一文でOKです。
「今日読んだ本で一番大事なことは何?」
「それを説明するとしたら、どんな言い方をする?」
この問いかけだけで、情報選択力・整理力が育ちます。
📌② 同じテーマを複数の情報源で調べる習慣
例えば「動物園」をテーマに考えてみましょう。
たくさんの動物を飼育している動物園の役割って何かな?動物を飼育して、お客さんに見てもらうのが役割?でも、狭いところに閉じ込めて動物がかわいそう、という考え方もあるよね?どう思う?
こんな風に問いかけてみて、自分で調べるきっかけを与えてみましょう。
「動物園の役割」を調べるなら、
- 動物園の公式サイト
- 研究者の記事
- 動物保護団体の意見
- 動物好き向けブログ
などを比較することで、情報の立場や意図の違いに気づきます。これは批判的思考の入り口です。
📌③ 読んだ内容について「自分の意見」を持つ習慣
読書後の問いかけとしておすすめなのは次の3つです。
「わかったこと」
「疑問に思ったこと」
「自分の考え」
これらを日記・会話・ワークとして残しましょう。
「受け身の読書」から「思考する読書」に変わります。
■ おわりに
AIが進化し、情報があふれる社会では、「読む」という行為は単なる知識獲得ではなく、自分の考えを作り、責任を持って判断し、社会と関わるための基礎能力になります。総合的読解力は将来、大学入試だけでなく、職業選択、人間関係、社会参加、そして人生の選択にも影響する力です。
そしてもう一つ、大切なことがあります。それは――「画面の外の世界で経験し、感じ、身体で覚えること」。
匂い、音、景色、痛み、驚き、悔しさ、喜び。そうした体験を言語化する練習こそ、AIでは代替できない人間の思考の源になります。言葉は外から与えられるだけでなく、内側から「育てるもの」でもあるのです。
毎日の小さな積み重ねが、子どもの未来の思考力を育てます。読むこと、書くこと、感じたことを言葉にすること。そうした習慣こそが、10年後の主体的な学びにつながる——そう信じて、まずは3つの習慣から始めてみてください。








