
横浜校の校舎ブログ、5月を担当します、
ナカムラ(通称:ポール)です。
今回は、現在大注目の書籍、エマニュエル・トッド『西洋の敗北』を取り上げます。
Emmanual Todd氏は年生まれ、フランスの歴史学者、人類学者です。
国・地域ごとの人口や家族システムに注目した研究を行っています。
1976年『最後の転落』ではソ連の崩壊を指摘し、2002年『After The Empire(帝国以後)』では、イラク戦争に向かうブッシュ政権の愚かさを指摘しました。
2003年からブッシュ政権が始めたイラク戦争も、2022年からのウクライナ戦争も、あまりに不必要なものであったとTodd氏は指摘します。
さて『西洋の敗北』。
この「西洋の敗北」という題名は二つの意味を持つと言われます。
まずは一つ目の意味です。
2022年から始まったウクライナ戦争は、実質アメリカ&ヨーロッパ諸国(NATO)とロシアの戦争でした。
結果として、アメリカ&ヨーロッパ諸国はロシアに敗北。
2025年5月現在、停戦合意に至ってはいませんが、勝敗は決しています。
これが、「西洋の敗北」の一つ目の意味。
二つ目の意味です。
19世紀の産業革命以後、約200年にわたって「西洋」が主導してきた、西洋文明の崩壊。
特に、「西洋」についてTodd氏は、(より狭義の「西洋」ということになれば)自由主義的かつ民主主義革命を成し遂げたかが基準となる。
するとより厳選されたクラブとなり、イギリス・アメリカ・フランスだけになる。1688年のイギリス「名誉革命」、1776年の「アメリカ独立」、1789年の「フランス革命」が、この狭い意味での「自由主義西洋」の誕生のきっかけとなった出来事だ。
と書いています。
この3つの革命は、啓蒙思想の影響を大きく受けました。
「啓蒙」、Enlightenment。
この言葉は生易しいものではありません。
言い換えれば、「理性崇拝主義」です。
特に1789年の「フランス革命」は、理性崇拝によって、神を叩き壊した初の出来事と言われます。
そうして、理性崇拝は唯物論へと向かっていきました。
さて、「西洋」の話に戻ります。
狭い意味では、イギリス・アメリカ・フランス、広い意味では、北欧諸国と西ヨーロッパ諸国、現在民主制を導入している東ヨーロッパ諸国が、「西洋」ということになりましょう。
その「西洋」の文明が崩壊している。
これが、「西洋の敗北」の二つ目の意味。
なぜ、ウクライナ戦争でアメリカと欧州は失敗したのでしょうか。
なぜ、「西洋」の文明は崩壊していると言えるのでしょうか。
現在の西洋人は深くものが考えられなくなっている、とTodd氏は言います。
理念もなく、ニヒリズムに陥っていると。
現在の西洋人にとって、重要なことは、
・自分の影響力の最大化
・自分の利益の最大化
・自分の楽しみの最大化
だとよく言われます。
これが実現できた人が、いわゆる「勝ち組」。上位数パーセントの仲間入りです。
そして、この現在の「勝ち組」は、「負け組」に対して、軽蔑感を抱き、異常なまでの優越感を抱くと言います。
偏差値のよい学校へ入り、大企業に入ることが、人生での最重要事項だ、と刷り込まれて育った時代の人々の、成れの果てがこれです。
面白いことに、1960年以降、大学進学率が高くなるにつれて、西洋社会の知的水準は急激に下がったと言います。
確かに、自分の影響力の最大化、目の前の利益の最大化、楽しみの最大化、このような価値観で人生を捉えればそうなるのも頷けます。
「西洋の敗北」、西洋文明の崩壊の最大の原因はなんでしょうか?
それは、キリスト教的価値観を失ったことだ、とTodd氏は言います。
ギリシア哲学的思考を失ったから、とも言えるでしょう。
宗教を失うと、人間としての本領の発揮も、その本分の実践もできないのが人間なのです。
人間は自分のためだけには生きられないものなのです。
自分、自分、自分、ということは愚かしいことなのです。
人間には、人間の価値観を超えたところの、より高次元の価値観が必要なのです。
「理想」といってもよいかもしれません。
もちろん、「理想」通りには生きられない。
しかし、「理想」があれば、日々、「理想」に近づくために、反省し、努力し、工夫をしていく。
西洋においては、キリスト教がその「理想」を与えていたわけです。
人々は、日々、自らの行いをよりよいものにしていこうとしていた。
そうしたシステムが、生活の中に息づいていたわけですが、現在それが消滅してしまった。
だから文明の崩壊、西洋の敗北、と至るのです。
ここまで考えてきますと、では、日本はどうだろうか?と思わないではいられません。
自ら、考え、
自ら、学ぶ。
これが実践できていれば、現在の日本の問題点も、解決策も、きっと見つけられるはず。
そう信じます。
ナカムラでした。